2012年6月14日木曜日

「規制緩和」がもたらしたもの

京都大学教授の藤井聡先生の新著「コンプライアンスが日本を潰す - 新自由主義との攻防」を読了。

2001年に日本中が熱狂した小泉竹中政権下での「新自由主義」思想をもとにした構造改革。これらの構造改革の弊害を振り返り、それが現代の日本においてどのような影響を及ぼしているかを解き明かしている。

現代の日本では、頻繁に「コンプライアンス(compliance)」というカタカナ言葉がビジネスシーンで叫ばれている。これがいかに日本人にとって毒であるかが本書では語られている。

例えば、そのひとつの例として、「タクシー業界」がある。タクシー業界は、2002年の「小泉・竹中政権」の下で大改革が行われた。

有名なのが、タクシーの台数規制を撤廃する「規制緩和」である。この改革が断行される思想の元になったのが、新自由主義だ。

新自由主義とは、「自由な競争があれば、品質の悪い商品は淘汰され、良い商品だけが適正な価格で売られるようになるはずだ」という考えに基づいるのは自明だ。だから、自由競争にすれば全てうまくいく、と彼ら新自由主義的な学者や政治家、経済人は思うわけである。

さらに、「自由競争のメカニズムを邪魔するものは、抵抗勢力である政府である」としている。ですから、よく言われるような「小さな政府」「官から民へ」「規制緩和」といったスローガンはある意味で一貫し続けている。

そして、タクシー業界も、新自由主義思考にもとづいて改革が断行されたのだ。その結果、タクシーの台数が増えすぎて、運転手の給与はどんどん下がり続け、平均年収200万円を下回り、沖縄などの一部地域では年収90万円といった異常事態が起こった。

労賃が下がれば、労働者は少しでも多く稼ごうと長時間働くことになる。僕の友人のお父さんにもタクシーの運転手をやっている人がいる。話を聞けば、お父さんには申し訳ないが、その労働環境は最悪である。

その会社を例に出させていただくと、こうだ。
・20時間ぶっ通しで働いたあと丸一日休む
・給料は月平均 手取りで12万円(歩合制)
・連休、有給休暇はなし
・労働組合は存続するが、会社よりである為、実質無いに等しい

このような状況では、病気したり入院したりした時、死活問題である。いや、緊急性の問題がなくても平時において常に生活の危機にさらされていると言っても良いだろう。

もちろん、全てのタクシー会社がこのような労働体系ではなく、あくまでも一例である。しかし、上記にも述べたように、タクシー運転手の平均賃金は200万円という数字からしても、これは稀有な例とは言えない。

このように待遇が悪ければ、タクシー業界に若者が就職しなくなる。だからいま、急激に高齢化が進んでいるのである。

そして、上記のような労働環境ではろくに身体や精神をいたわることもできないため、事故も多発する。現にタクシーの事故は増え続けているのだ。

ただ、これだけ規制を緩和したのだから、競争が激化し、値下げ競争に各社が踏切り、タクシー料金が下がるだろうと、思われる。新自由主義者たちが掲げる理想論からすれば、それは必然なはずある。

しかし現実に起きているのは、東京などの都心を中心に置きているタクシー料金の値上げ運動で、価格が上がっているのだ。つまり新自由主義者が掲げた理想とは、真逆のことが起こっているのだ。

規制緩和は、従業員の労賃が下がり、事故率が上昇し、料金まで上がる。さらには、都心を中心に大渋滞が巻起こっているのも規制緩和によるものだ。

この恐るべき規制緩和が、一部の業界にかぎらず、あらゆるほとんどの分野で起きているということを本書では明らかにされている。現代を知るために必読の書である。

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